RYU裁判とは

RYU裁判とは

第1 奈良市と自衛隊奈良地本に対する国家賠償訴訟の提起

2024年3月29日、奈良市在住の18歳の原告が、奈良市が自衛隊奈良地方協力本部(以下、「自衛隊奈良地本」)に提供した「個人4情報」(住所、氏名、性別、生年月日)を利用して、自衛隊奈良地本が原告に対し、自衛官募集のはがきを送付したのは、原告のプライバシー権を侵害するとして、奈良市と自衛隊奈良地本を相手取り、奈良地方裁判所に国家賠償訴訟を提起しました。

第2 自衛隊に対する個人情報提供の経緯

  1. 自衛隊は、従前、住民基本台帳が誰でも閲覧できたことから、手書きで住所を写し取り、自衛官募集のための名簿を作成していました。
  2. 2006年、プライバシーの意識の高まりなどを受け、住民基本台帳法が改正されて原則非公開となり、例外的に同法11条1項で、国又は地方公共団体の機関が、「法令で定める事務の遂行のために必要である場合」に個人4情報に係る部分の写しを「閲覧」することのみ可能となりました。
  3. 上記改正後、奈良市においても、募集事務のために、個人4情報に係る部分の写しの「閲覧」に応じるようになり、自衛隊奈良地本は、これを書き写す方法により、当該情報を収集していました。
  4. ところが、安倍晋三総理大臣(当時)が、2019年1月30日、衆議院本会議で、自衛隊員募集について、「防衛大臣からの要請にもかかわらず、全体の6割以上の自治体から、自衛隊員募集に必要となる所要の協力が得られていません」などと発言したことを受け、国は、2020年12月18日、「自衛官又は自衛官候補生の募集に関し必要な資料の提出を防衛大臣から求められた場合(自衛隊法97条1項及び同法施行令120条)については、市区町村長が住民基本台帳の一部の写しを提出することが可能であることを明確化し、地方公共団体に令和2年度中に通知する。」と閣議決定しました。
  5. この閣議決定を受けて、2021年2月5日、被告国は、防衛省と総務省の連名で、都道府県市区町村担当部長宛に、「自衛官又は自衛官候補生の募集事務に関する資料の提出について(通知)」を発出しました。
    そこでは、募集対象者の個人4情報の提供について、「自衛隊法第97条第1項に基づく市区町村の長の行う自衛官及び自衛官候補生の募集に関する事務として自衛隊法施行令第120条の規定に基づき、防衛大臣が市区町村の長に対し求めることができること」、同規定の「募集に関し必要な資料として、住民基本台帳の一部の写しを用いることについて、住民基本台帳法上、特段の問題を生ずるものではない」とされました。
  6. 2022年12月8日、自衛隊奈良地本は、奈良市長に対し、募集対象者の個人4情報に関する資料についての紙媒体又は電子媒体での提出を依頼し、2023年1月30日、両者の間で「奈良市自衛官等募集に係る住民基本台帳の一部の写しの提供に関する覚書」が締結され、募集対象者の個人4情報を紙媒体で提供することとされました。
    なお、奈良市は、これに先立って2022年7月、自衛隊への情報提供を望まない者の手続きとして「除外申請制度」を導入、同年10月1日より除外申請の受付を開始していますが、市のホームページや広報誌で告知するだけで、募集対象者に対して直接知らせていません。
  7. 2023年2月、奈良市は、自衛隊奈良地本に対し、原告を含む募集対象者の個人4情報を紙媒体で提供しました(出生の年月日が2001年4月2日から2002年4月1日までが3426人、2005年4月2日から2006年4月1日までが2993人)。
  8. このようにして、2023年7月上旬、原告の元に、自衛隊奈良地本から、自衛官の募集・採用を案内するはがきが配達されました。この時点で、原告は未成年でした。

第3 訴訟の概要

  1. 訴えの内容
    本件訴えの内容は、①原告の個人情報を提供できる明確な法令が存在しないにもかかわらず、本件覚書を締結し、自衛隊地本に対して個人4情報を紙媒体で提供した奈良市の違法行為(奈良市個人情報保護条例違反:個人情報保護法改正により2023年3月31日失効)と、②その違法行為により個人情報を取得・保有・利用した自衛隊奈良地本の違法行為(個人情報保護法違反)により、③プライバシー権・自己情報コントロールを侵害され、④精神的損害を被ったので、奈良市および国に対して、連帯して損害賠償を請求するものである。
  2. 奈良市の情報提供行為
    奈良市は、住民基本台帳法の規定を無視し、原告ら本人に無断で、目的外に個人情報を自衛隊奈良地本に提供しており違法です。とりわけ、本件の提供先は、憲法9条に違反して戦闘を任とする自衛隊である点で違法性が重大です。
    高校卒業予定者に対する求人活動については、教育的配慮から募集活動について規制がなされていますが、本件では、本人も保護者も知らない間に、本人の情報が自衛隊に提供され、勧誘に利用されている点でも大きな問題があります。
  3. 自衛隊奈良地本の情報取得・保有・利用行為
    行政機関の長等は、法令等に基づく場合を除き、利用目的以外の目的のために保有個人情報を利用、提供してはならいないところ、自衛隊奈良地本は、奈良市による違法な提供行為によって個人情報を取得しており、その保有、利用することも違法です。
  4. 原告のプライバシー侵害
    プライバシー権は、現在において「個人の尊厳」の根幹をなす極めて重要な権利であり、憲法13条によって保障される基本的人権です。とりわけ、デジタル化が急速に進む現在社会においては、人が「個人」として存在し、「個人」として自己決定し、「個人」として生きて行くためには、自らの個人情報を、誰に、どの範囲で開示するかについて決定する権利が極めて重要となります。
    最高裁も、広く、住所、氏名、生年月日なども含めた個人情報を「第三者にみだりに公開されない自由」として認めています。
    したがって、行政機関等が個人情報を保有できるのは、「法令の定める所掌事務又は業務を遂行するため必要な場合」で、かつ「利用目的をできる限り特定」する場合に限定されますし(個人情報保護法61条1項)、行政機関の長等は原則として、利用目的以外の目的のために個人情報を利用、提供してはならないとされます(同法69条1項)
    奈良市及び国の行為は、これらの要件を充たさず、原告のプライバシー権を侵害します。
  5. 損害額
    (1) 慰謝料100万
    原告は、奈良市及び国の違憲・違法な行為によって、自らのあずかり知らないところで、自己の個人情報が自衛隊という軍事組織に提供されたことにショックを受けるとともに大きな恐怖を感じています。その損害は100万円を下りません。
    (2) 弁護士費用
    原告は、奈良市や国の違法な行為を正すべく、弁護士に依頼して本件訴訟を提起することを決意しました。その弁護士費用は10万円を下りません。

第4 本件訴訟の意義

自衛隊の存在が憲法9条に違反しないかについては議論が存在しましたが、2014年7月1日、政府は、それまで他国に対する武力攻撃を実力で阻止するものとしての集団的自衛権の行為は憲法9条に反して許されないとした解釈を覆し、集団的自衛権の行使を容認する閣議決定を行い、それを実施する新安保法制法を成立させました。

これにより、自衛権の発動は、日本に対する直接の武力攻撃が発生した場合にのみ、これを日本の領域から排除するために必要最小限度の実力の行使に限って許されるという解釈の核心部分を否定することになり、自衛隊は一見明白に憲法9条に違反する存在となりました。

さらに、2022年12月16日、「国家安全保障戦略」、「国家防衛戦略」、「防衛力整備計画」の「安保3文書」を改定、閣議決定し、「反撃能力」の保有まで打ち出しています。

それにより、自衛隊が他国の領域において武力行使をすることが解禁されたことになり自衛隊が憲法9条2項が保持を禁ずる戦力に該当することがより明確になったのです。

このような中で、2023年から5か年で43兆円もの大軍拡が進められていますが、自衛隊員の数は、毎年減少して定員を大幅に割り込み、中途退職者も増加して定員割れは状態化し、1万6000人も人員が不足していると言われています。

本件訴訟は、このような大軍拡、戦争をする国づくりを、人的基盤作りの面から阻止するものです。 地方自治体の自衛隊への名簿提供の違法性を争う訴訟としては、これまで、福岡、兵庫で住民訴訟が提起されていますが、名簿提供された当事者が原告となり、国家賠償訴訟を提起するのは全国初だと思われます。

この訴訟が、奈良から全国に広がることを願っています。

RYU裁判をなぜ起こしたのか

奈良市在住の18歳高校3年生(提訴当時)を原告に
被告は奈良市と国に損害賠償請求を求める。(100万円と弁護士費用)

•自治体申し入れだけでは状況を変えられない
•憲法を武器に裁判でたたかえば勝利できる!
•原告になる青年が見つかった!